Thursday, February 8, 2018

ザ・ウィルソン論

これは、このブログで初めてアトランティック・サーモン・フライのみに、かつ細部に踏み込んだポストである。とあるパターンを通じての私のモガキをぜひ紹介したい。そうすることによって、フライ・ドレッサーの頭の中で何が起こっているのか、そしてなぜこの主題に惹きつけられ、その後の一生取り組むことになるのかの説明になるかもしれない。

ここ数年冬から春にかけてポストしてきたよう、ジョージ・ケルソンによる壮大な本ザ・サーモン・フライのイラスト・ページのフライとそれらの額装に取り組んでいる。プレート1は2015年秋に完成された。完成されたプレート2とその6つのフライは、ふたつ下のポストに発表されている。プレート3も完成された。まだここにポストしていないが、オンライン・カタログに発表されている。またフェイスブックやインスタグラムでも逐一発表している。

プレート3の6つのフライは曲者ばかりだ。一般的に言って素直というか、分かりやすいのはダーハム・レインジャーとベンチルくらいだろう。残りの4つは、テクニックと翻訳を要する。ウィルソンは一見簡単そうに見えるが、私にとってはかなりの挑戦・モガキを提供された。なぜ?どうして?まずはレシピから見てみよう。

タグ:シルバー・ツイストとクリーム・シルク
テイル:サマー・ダック
バット:ブラック・ハール
ボディ:シルバー・ティンセル
リブ:ゴールド・ティンセル(オーバル)
スロート:ギニーとブラック・ヘロン
ウイング:エジプシャン・グース、リトル・バスタード(クリーム)、シルバー・スペックルド・ターキー、グレイ・マラード、トッピング
チーク:インディアン・クロウとチャッタラー

まずは順調に進む。最初のハードルはヘロンだ。ヘロンの羽はアメリカで入手・所有するのは困難だ。ほとんどのドレッサーは何か代用羽根を使う。私はターキーのマラブーを黒に染めて代用した。マラブーはしばしば同じく入手・所有が困難なイーグルの羽の代用でもあるが。完璧な代用ではないかもしれないが、結果・見映えに満足している。

次こそこのフライのレシピを読み解くのに最難関の課題だ。ウイングとそのマテリアル。ターキーとバスタードはある。これらはメアリッド・ウイングを構成する際とても結合させやすい。エジプシャン・グースはアメリカ国内で購入可能のようだ。しかしどの部分の羽根か?エッセンシャル・ケルソンのマーヴィン・ノルティ氏の脚注によれば、「ケルソンはエジプシャン・グースのどの羽根が好ましいか言及していない。翼と尻尾部分の羽根は特に目を惹かれないが、腹部の羽根は確かに目を惹かれる。腹部の羽根全体をホール・フェザーとしてアンダー・ウイングに使っている可能性も考えられる」。イラストも‟そう見えなくもない”。エジプシャン・グースの腹部の羽根は、ピンテイル、ティール、ギャドウォルなどと酷似している。なので大き目のピンテイル二枚をペアとしてアンダー・ウイングとして使うことにした(メアリッド・ウイングの下に収まるよう加工したが)。グレイ・マラードについては、トラウトのストリーマーやニンフのテイルに使うマラードの腹部の羽根を使うことにした。

まずピンテイルのアンダー・ウイングを巻き留めた(ここですでに苦闘)。次に他の羽根を結合させることにした。いつものように‟24のルール”を適用した。これはメアリッド・ウイングに使う羽根の羽肢の本数の合計を24(プラス1本・2本くらいの例外も含める)にすると厚からず薄からずちょうどいい厚みのメアリッド・ウイングができるということ。ターキーとバスタードから8本づつ。グレイ・マラードは本数でなく他と同じくらいの幅に羽茎を残したまま切り取った。ここで大きな‟しかし”が発生。グレイ・マラードはピンテイル(あるいはエジプシャン・グースでも)と似ていて溶け込んでしまい映えない。ターキーとバスタードの上にでも結合させない限り。しかし、そんな長い・大きな羽根は存在しない。ターキーとバスタードと共に交互・繰り返しの複雑なデザインは考慮しなかった、というのは、結合させるのも、いざ巻くのもほぼ不可能だからだ。なので、ブロンズ・マラード(グレーと比べかなり黒め)を代用することにした。これはピンテイルのアンダー・ウイングによく映える。何かしらダック(鴨各種)の羽根が組み入れられているウイングはうまく取り付けるのが難しい。しかし経験と練習でできるようになる。
残りを取り付け、仕上げたのがこれだ。

受け入れられるレヴェルにけっこういいと思った。しかし、どうにも納得いかないようなイガイガしたような気持が残っていた・・・・・・うまくできたはず・・・・みたいな。どうにかグレイ・マラードを使う方法があったのでは?写真では見えないが、ヘッド・ウイング・スロートの移行部がスムースでない。そしてトッピングが意図した感じと違う(ちょっと突きあがっている感じ)。
6つ目、最後のダーハム・レインジャーを仕上げた後、もう一度ウィルソンをやり直すことにした。ヘッドのコーティングを注意深く削り剥がし、スレッドを見つけ、わずかづつ巻き戻し始めた。ウイングを外し、実はスロートもやり直した。今度はちょっと長めのピンテイルを使った。そして今回はグレイ・マラードをルーフとして使うことにした😏。やってやれないことはないだろう!?ルーフはウイングの一部だし、クラシックの本においては、しばしば、明記されていないときがある。これならターキーとバスタードの上に取り付けられる!今度はターキーとバスタードを12本づつ結合デザインさせ、まずマウント。その上のカーブにそって、グレイ・マラードのストリップをルーフとして巻いた。残りのマテリアルを巻き留め、今度はトッピングもヘッドも納得いくように仕上げられた👏😎

というわけで、私はこのようにしてザ・ウィルソンを翻訳し完成させたのだ。
ここまで読んで、なぜ私がしばしば翻訳・読み解くなど言うのか不思議に思った読者もいるかもしれない。また、なぜフライ・タイイングに翻訳・読み解きなどが必要になるのか?私達が知るアトランティック・サーモン・フライは書物によるものだ。たくさんのパターンが、あるいは全てのパターンが、現存しているわけではない。もちろん、これほど複雑な人工物を作り上げるにはそれなりに習い・従わなければならない規則・手順がある。ランダムに行き当たりばったりで作られるジャンク・アートなんかではないのだ。テクニックと規則は、練習の上に練習を重ねてのみ習い・身に着けられる。しかし、規則や決まりごとが実際はない部分もあるのも事実だ。メアリッド・ウイングにおいて、どの羽根・どの色が上に下になるかなど明記されてない。また、複雑なデザインのメアリッド・ウイングなど、19世紀末の人々は本当にこしらえたのだろうか・・・・・?さらには、同じ名前のフライなのに、なぜ筆者によって使われているマテリアルやスタイルが違うのだろうか?

現在において、私達がとあるフライの名前を声にすると、あるいはタイプすると(トラウト用でも、スティールヘッド用でも、その他何用でも)、ほとんどのフライフィッシャーとフライタイヤーが、同じ色・同じマテリアル・同じスタイルで巻かれたフライを頭に浮かべるだろう。ここでは、個々のフライの歴史を振り返ることはできなけれど、これらのフライは、アトランティック・サーモン・フライなどより、はるかにたくさんの人々とメディア(本、雑誌、さらにはインターネット)によって話され、知られているのは事実だ。アトランティック・サーモン・フライの歴史は簡潔である。その中で、19世紀末から20世紀初頭のほんの短い期間がゴールデン・エイジと呼ばれている。これらのフライは、大英帝国の島々でのみ、巻かれ、使われ、発表されていたのだ。さらには、サーモン・フライフィッシャーは今現在なんかより遥かに少なかったはずだ。これは私たちの想像でしかないが、ジョック・スコットでもグリーン・ハイランダーでもドクター系でも、ある筆者とその友達・知り合いなどのヴァリエーションがそのまま記録されてしまったのではないだろうか。

想像といえば、これら‟失われつつある芸術”に関わるとき、私達はときどき想像してしまいがち空想になってしまいがちのときも多々ある。19世紀末の人々は、今の私達が額装のために作り上げる複雑かつ美しいメアリッド・ウイングを実際作っていたのだろうか?これは明らかに現代っ子の私達自身の手法だ。そして、それぞれのドレッサーが異なりかつユニークに仕上げる。この手の疑問は後を絶たない。オウムの羽根は実際メアリッド・ウイングに使われたのだろうか?そんな長い・大きい羽根があったのか?それともサイドとして使われたのか?そもそも実際のフライの大きさはどんなだったのだろう?

さらに現代の私達は、これらを芸術と呼び、取り組んでいる。これでは、討論に正誤も、フライにうまいも下手もないのではないか!?

しかし、いくつか確信していることがある。まず第一に、これらの思い・考察は私のエゴやナルシズムから来ているわけではないこと。次に、アトランティック・サーモン・フライを完成させるためには、いくつかの規則(テクニックと理論)が絶対に存在し、それらは練習によってのみ培われるということ。これらの原則に基づいたうえで、初めてドレッサーは自らの好み・スタイルを発達・発展させられるということ。そして、その域に達することができたなら、他人のそれも認知し受け入れることだ。いいか悪いか、美しいか醜いか、フライタイヤー間で批評し傷付け合うより、まずは自分自身のフライを批評したらどうか!そして、むしろフライ・タイイングやアトランティック・サーモン・フライの経験の無い人々に見せて、意見をもらってはいかがだろうか?

ザ・ウィルソンに取り組み完成させたからこそ、これらの思いが頭を駆け巡り、これほど書き出すに至ったわけだ・・・・・・

私の個人的旅路は続く・・・・それでは次のプレートに取り組もうか!